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【教員紹介】植物生理学ご専門・武田征士先生
2024.09.13
- 学科紹介
先日お知らせした生物科学科の学科長・長沼先生のご紹介に続いて、植物生理学・分子生物学・発生学をご専門とされ「環境負荷をかけない循環型食料生産システムの構築」を主な研究テーマとされている武田征士先生をご紹介いたします!
武田征士先生には、8月のRikoフェスで「未来の食料生産技術」をテーマにご登壇いただき、植物と昆虫の共生関係や、環境に負荷をかけない食糧生産としての昆虫食の可能性についてお話いただきました。講演会の後は「昆虫食の紹介および試食コーナー」にもご協力いただき、多くの高校生の皆さんと楽しみながら、未来の食料生産の1つの可能性についてご紹介いただきました。
- タイの屋台でドリアンを食べる武田先生
- 8月Rikoフェス「昆虫食の試食コーナー」
【プロフィール】
大分県大分市出身。京都大学理学部卒、同大学院修士・博士課程(理学・生物学)修了。英国ジョンイネスセンターで3年間ポスドク研究員を務めた後、奈良先端科学技術大学院大学で特任助教、京都府立大学で助教・准教授として勤務し、2025年4月より安田女子大学に着任予定。植物器官の発生、植物と昆虫の相互関係、持続可能な食料生産システムについての研究を進めている。研究成果を事業化するため、大学発スタートアップ企業・未来食研究開発センター(株)を設立、取締役を務める。著書に「地球・生命ヒストリー」「植物を学ぼう、植物に学ぼう」。趣味はクラシックギター、マンドリン、サイクリング、トレイルハイクなど。
未来食研究開発センター株式会社
【専門分野】
- ・植物発生学
- ・植物生理学
- ・植物分子生物学
- ・植物―昆虫相互作用
【研究テーマ】
- ・環境負荷をかけない循環型食料生産システムの構築
- ・自然栽培の科学エビデンスに関する研究
- ・虫こぶ形成メカニズムの研究
- ・花弁形態形成メカニズムの研究
【近年の研究テーマについてご紹介いただきました】
地球上の生物は、みな太陽光エネルギーに依存しており、その太陽光を最も効率よく使っているのが光合成をする植物です。植物がいないと、我々ヒトを含むほとんどすべての生物が生きて行けません。また、植物を最も巧みに利用しているのが昆虫で、中には植物組織を改変し、自分の食料源と住居を兼ねた構造(虫こぶ)を作るものがいます。植物と昆虫の生き様を研究すると、自然にある素晴らしい能力に気づかされます。私は、植物と昆虫がもつ能力を解明すべく、花の科学(Flower Science)、植物と昆虫の関係(虫こぶ、Gall Science)と、研究の社会実装(Social Implementation)の3つのテーマで研究を進めています。
1.花の科学(Flower Science)
花の中でも、花弁は最も多様に進化した器官であり、訪花昆虫を誘引する役割を果たします。また、園芸分野では花弁形態の変化や多弁化によって、より高品質な品種が作出されます。様々な植物を材料に、花弁発生と形態形成の仕組みを調べ、それを応用する研究を進めています。
①昆虫との共進化による花弁形態形成 花粉を運ぶ昆虫などを呼びよせるために、花弁は複雑な形や色をもつように進化してきました。例えば野生ランのサギソウでは、3枚の花弁のうち1枚が鳥の羽ばたくような形になります(写真)。花弁の基部には穴が開いており、そこから蜜を貯める距(きょ)というチューブ状の器官ができます。この独特な形がどうやって作られるのかを、昆虫との共進化や、遺伝子発現、細胞形態変化などの観点から研究しています。 |
②花弁をまっすぐ伸長させるメカニズム 「花弁がまっすぐ伸びる」という、一見当たり前のような現象は、実は植物の積極的なメカニズムによって行われることが分かってきました。花弁が曲がるアサガオの系統「台咲」は、花冠の基部が2度折れ曲がり、花の中央に筒のような構造を作ります(写真)。この原因を調べたところ、台咲系統では花冠外側の分泌腺毛に異常があり、狭いつぼみ空間の中で、花冠がスムーズに伸長できずに曲がってしまう事が分かりました。このことは、花のミクロ構造がマクロな形態に影響を及ぼすこと、また花びらがまっすぐ伸びるのは決して当たり前ではなく、植物が積極的なメカニズムによって行っていることを示しています。このように、花のミクロ構造を研究することで、花弁の形づくりのメカニズムが見えてきます。 |
③その他 |
2.植物―昆虫相互作用(虫こぶの形成、Gall Science)
虫こぶは、昆虫や線虫、バクテリアなどが植物に作るこぶ状の組織で、特に昆虫が作るものは高度に組織化されており、昆虫にとっての食料源と住居を兼ねた構造になります(写真)。本来植物が作る器官とは全く異なる形態になることから、虫こぶ形成昆虫は、植物の発生機構をハイジャックして、自分に都合の良い構造を作り上げていることが示唆されます。
この植物改変能を解明するため、色々な植物の虫こぶを研究しています。特に、ヨモギにはタマバエが異なる形の虫こぶを作ることから、虫こぶ形成の共通基盤と多様性を理解するのに適した材料です。ヨモギ虫こぶには長い毛をもつものがあり(写真)、これにヨモギの機能性成分が蓄積されている可能性があります。虫こぶ形成の仕組みと、機能性成分産生の場として活用する技術開発を目指しています。
3.環境負荷の少ない食料生産システムの開発(社会実装、Social Implementation)
植物と昆虫の相性の良さを活かして、環境負荷の少ない、安定した食料生産システムを開発しています。食用昆虫ミールワームは、米ぬかやフスマ(麦の皮)と、果物の皮、野菜クズなどで生育可能で、タンパク質や不飽和脂肪酸を含む食材となります。植物工場などでイネや麦、さらには他の小型野菜を栽培し、その残渣で食用昆虫を飼育することで、我々が生きて行くのに必要な食料生産が、閉鎖空間で可能になります。
これらの技術を世の中に広めるため、大学発ベンチャー企業(未来食研究開発センター株式会社)を設立しました。今後は、大学研究と会社の共同事業として、栽培・飼育システムの最適化・自動化や、小型野菜・果菜などの品種改良を進めて、将来的には都市農業や乾燥地域での食料生産、さらには宇宙空間での食料生産技術の開発を目指します。
【高校生に向けたメッセージ】
私たちが生物である以上、すべての人が生物学を学ぶべきと考えています。生物を見ていると、人間の悩みや社会問題がちっぽけなものに感じてきます。答えは自然にあり、生物学はその答えを探す学問です。生物を学ぶ(というより、生物から学ぶ)のに、特にこれが必要、というようなものはありません。
ただ、ツールとしての知識があると、世界が広がります。例えば、葉の付き方(葉序)やカタツムリの殻のようならせんパターンは簡単な数学で説明できますし、生物を構成する物質だと化学、生物の動きは物理、アサガオのような江戸時代から続くものを研究しようとすると古典(国語)、国際共同研究を進めるのに英語が必要です。さらに、自然がもつパターンの理解には美術的なセンス、音響生物学のような分野では音楽センス・・・つまり、自分が好きな分野を武器として磨くことで、自分なりの生物学ができるという事です!
今やっている勉強は、どれも決して無駄になりません。その中で自分の武器を見つけてピカピカに磨き、大学で一緒に生物を研究しましょう。