

心筋梗塞はどのようにして起こるのか?~新しい画像診断による検索~
心臓病は現在我が国の死亡原因の第2位を占めています。心臓を栄養とする冠動脈の壁にプラークと呼ばれる脂質の塊が形成され,さらに突然破裂して血管内腔が閉塞することで心筋梗塞が発症します。この病気の診断にはカテーテルと呼ばれる細いチューブを血管内に入れて,冠動脈の閉塞部位を見つける検査が行われています。その後,コンピュータ断層装置(CT)でより容易に冠動脈の診断ができるようになりました。さらに,冠動脈CTにはカテーテル検査では判別できない冠動脈壁のプラークの情報もとらえることができます。私は長年,この冠動脈CTを利用して心筋梗塞の発症予測について探り続けてきました。現在も,全国の医療機関との共同研究を進めています。
ストレス応答機構の遺伝子レベルでの解明と治療薬の開発
薬剤師として医療に携わるためには、その基礎として生命科学を理解することは重要です。あらゆる生物において、細胞は遺伝子に書き込まれた情報をもとに生体にとって必要な物質を作り、有害物質を除去しています。このような生命活動の仕組みを遺伝子レベルで解明することで、「健康とは何か」を深く理解することができます。例えば、酸素を使ってエネルギーを産生する生物は「酸化ストレス」に曝されており、それに対する防御機構を備えていますが、その破綻により種々な疾病に至ります。遺伝子化学分野では、生体に備わる「ストレス応答」の仕組みを究明することを目的として研究しており、疾病の予防・治療に貢献したいと考えています。
創薬化学(化学構造を改変して新しい治療薬を探索する研究)とプロセス化学(医薬品の実用的製法を開発する研究)
くすりの多くは、有機化合物(骨格が炭素でできた分子)です。くすりの体に対する作用は、くすりの分子を構成する原子の組成(種類と個数)そして分子の立体構造によって変化します。たとえば塩素をフッ素に置き換えただけで、副作用がなくなることがあります。またくすりの分子のなかには、(右手と左手のように)実像と鏡像が重なり合わないものがあります。さらにそのなかには、実像分子と鏡像分子で作用が異なる(たとえば一方は血圧を下げるのに、もう一方にはそのような作用がない)ものもあります。そこで私は、原子のつながり方を変えたり、分子の実像と鏡像を作り分けたりする有機合成化学の手法を使い、より良いくすりを見つける研究(創薬化学)を展開しています。さらに、くすりの分子を効率よくつくるための研究(医薬品のプロセス開発)にも挑戦しています。
レクチンの多様な生物活性の解析-抗ウイルス薬・抗腫瘍薬の開発
毎年流行がみられるインフルエンザやノロウイルス下痢症、エボラウイルスやマーズコロナウイルスなどの新興ウイルス感染症、このようなウイルスに対する薬、すなわち抗ウイルス剤や抗がん剤の開発を目指した研究をしています。特に紅藻、藍藻や細菌より精製した糖結合タンパク質(レクチン)の生物学的性状(ウイルス感染阻止効果・腫瘍増殖抑制効果等)を解析することで、抗ウイルス剤や抗がん剤としての有用活用を目指しています。
医薬品開発・医薬品の品質評価法の開発
医薬品は品質が命です。病気になった時に何の疑いもなく医薬品を用いますが、その有効性と安全性が担保されているのは、その品質が保証されているからです。それを実証・確認するのが医薬品の試験法。抗体医薬、核酸医薬など、様々な医薬品が開発されていますが、それぞれの医薬品にマッチする適切な品質評価法の開発は、その医薬品の有効性と安全性を保障する最後の砦となります。現在は、医薬品の品質評価法として汎用されている液体クロマトグラフィー(HPLC)、特に、高性能で迅速分析が可能となったコアシェル型充填剤を用いるUHPLC(ultra-HPLC)法による医薬品試験法の開発研究に取り組んでいます。
医薬品の適正使用および市販後における有効性、安全性の評価に関する研究
医薬品は情報とともに提供されてはじめて効果的かつ安全に使用することができます。医薬品の効き方には個人差があり、従来医師は経験や観察により処方を決定していましたが、最近ではEBM(Evidence Based Medicine)という根拠に基づいた医療が重要視されています。医師が患者の病状にあった最適な医薬品、剤形、投与量、投与方法などを決める際に、薬剤師は根拠となる文献を広く検索し十分な情報提供をします。また医療現場では日々膨大な医療関連情報(処方情報や臨床検査値など)が発生し、コンピュータシステムに効率よく蓄積されるようになってきました。臨床薬学分野では、治療効果が十分でない疾患に焦点を当て、医療関連情報の解析から有用なデータを抽出し、さらに国内外の文献調査からより効果的な薬物療法を見いだすことを目的として研究を進めています。