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日本政治史ゼミ 卒業論文を刊行

2025.06.05

  • 学科コラム

被爆80年という節目を迎える広島の裏側に光をあてた『軍都広島の形成-遠くて近い原爆以前の広島』が2月に刊行されました。編集を担当された日本政治史ゼミ担当の竹本知行教授にお話をお伺いしました。

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――ゼミ生とともに2年の歳月をかけて取り組んだ卒業研究の集大成とお聞きしました。このような形で書籍化されるということは大変珍しいのではないでしょうか?

卒業論文集の書籍化というのは、私もこれまでの教員生活で初めてのことでしたが、出版後、学会の先生方からもずいぶん驚かれるとともに、「内容的にも学術論文の水準を十分満たしている」と言われたのは本当に嬉しいことでした。学生たちも本を出版するという永久に残る業績を残せたことは、自身の学生時代の誇るべき思い出になったのではないでしょうか。
論文指導にあたっては、まず「問い」の設定を非常に重視しました。良い論文とは「創造性」・「論理性」・「実証性」を兼ね備えたものです。なかでも「創造性」は論文のオリジナリティを保証するものであり、「問い」はそれに対応する「答え」とともに執筆の動機に関わる最も重要な要素です。各人はそれを踏まえた章立てを通じて「論理性」と「実証性」が担保できるよう、構成について工夫を凝らしました。

――鉄道▼水道▼似島検疫所▼陸軍糧秣支廠▼陸軍被服支廠の5つのテーマに基づいて広島の都市形成を検証されたそうですね。この研究から、広島のどのような一面が浮かび上がってきたのでしょうか?

本書では、近代における広島の都市形成史を「軍都広島」の観点から実証的に検証することを目的としました。これからの広島を語ろうとすれば「今」(現代)とともに「遠くて近い過去」(近代)に対する深い理解が不可欠ではないかと考えたからです。
広島市が都市機能を大きく拡大させたのは明治期です。日清戦争にともない、明治天皇が広島に移られるとともに、国の立法・行政・軍事の最高機関が一時的とはいえ同市に集積したことで、広島は臨時の首都の機能を担いました。明治維新以降、首都機能が東京から離れた唯一の事例であるとともに、明治末年には人口15万を超えるに至った近代の広島の都市形成に極めて重要な意味を持っているといえます。
こうした広島の近代を今回5つのテーマで分析したことで、当時の人々の瑞々しい生活のあり様がリアリティをもって生き生きと浮かび上がったと思います。

――今年はちょうど被爆・終戦から80年。広島市の松井市長に表敬訪問されたそうですね。

3月5日に表敬訪問いたしました。学生から本書の内容について説明したところ、市長もそれぞれのテーマについて、ご自身がお持ちの知見を幅広く披露され、学生たちと親しく意見交換をしてくださいました。また、広島における歴史研究の取り組みについては、あまりに強烈な被爆の記憶を伝承する活動に比して、「原爆以前」を温ねる営みが必ずしも注目されてこなかったことを踏まえ、あらゆる時代の人々の営みに思いを馳せつつ研究を深めることは大切だと述べられ、学生たちの取り組みを評価するとともに、出版までの努力を労ってくださいました。

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――竹本教授にとっての「歴史を紐解き、政治を学ぶ意義」と高校生・学生たちへのメッセージをお願いします。

あらゆる出来事の記録は、そのままでは「歴史」にはなりえず、歴史叙述とは出来事相互間の脈絡を求める営みともいえます。そして、歴史について学び、そこから何らかの教訓を導き出そうとするならば、その時々で真剣に生きた先人に対する謙虚かつ冷静な態度がなくてはなりません。私は自身の研究においても、「なぜそうなったのか?」という「問い」を重視しています。「歴史は過去の政治であり、政治は現代の歴史である」(J.R.シーリー)と言われるように、「政治的動物」(アリストテレス)である人間の営みの歴史を紐解くことは、今を理解し、未来について考える際の唯一の手掛かりを私たちに与えるものだと思うからです。


政治を学ぶ意義、非常に興味深いですね。
6月22日に実施される「高校3年生・保護者対象入試相談会」やオープンキャンパスでは、竹本教授と直接話せるチャンスもあります!ご来場をお待ちしております。