• 学科ニュース

遺伝子化学分野よる研究成果が「Journal of Biochemistry」誌に掲載されました

2022.02.16

  • 学科コラム

本学薬学科の遺伝子化学分野(赤木 玲子 教授ら)の研究成果「Heme oxygenase-1 induction by heat shock in rat hepatoma cell line is regulated by the coordinated function of HSF1, NRF2 and BACH1」が「Journal of Biochemistry」誌に掲載されました。
(doi: 10.1093/jb/mvab065)

生命維持に必要不可欠であるヘムは、タンパク質に組み込まれて酸素運搬、電子伝達に重要な役割を果たす一方、遊離状態では酸化ストレスの原因となります。細胞内のヘム含量を制御するヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)は、酸化ストレスで発現が誘導され、その誘導機構は遺伝子レベルで明らかにされています。一方、温熱ストレスによるHO-1誘導機構については不明な点が多く残されていました。本論文では、ラット肝癌細胞を用いてその機構の解明に取り組みました。
その結果、温熱ストレス負荷時に核内へ移行する転写活性化因子のHSF1が結合する新たな転写調節DNA領域(下図: distal HSE)が見つかりました。このdistal HSE領域は、HO-1の発現を正に制御する転写活性化因子のNRF2及び、負に制御する転写抑制因子のBACH1の結合領域であるMAREが近接しています。さらなる解析により、酸化ストレス時はBACH1が分解されてNRF2のMARE領域への結合が増えることでHO-1の発現が高まるのに対し、温熱ストレス時は逆にBACH1の発現が高まってNRF2のMARE領域への結合が阻害され、代わりに主にproximal HSEへのHSF1の結合が起こることにより、HO-1遺伝子の誘導を起こす可能性が示されました。このように、温熱ストレス時のHO-1の発現レベルは、酸化ストレス時とは異なる機構で3種の転写因子が複雑に絡み合って巧妙に制御されていることが明らかになりました。
赤木らはこれまでにHO-1発現が敗血症や虚血性腎不全などの種々な疾病の治癒に深く関わっていることを報告しており、本成果は、HO-1の発現を制御することで、それらの疾病を治療する薬をつくるための足掛かりになると考えられます。

参考: Reiko Akagi, Takanori Kubo, Yuta Hatori, Takafumi Miyamoto, Sachiye Inouye. J. Biochem., 170, 501-510, 2021

yaku20220216_01.jpg