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安田女子中学高等学校

トピックス

世界で活躍する本校の卒業生 橋本恵さん:総合学術雑誌『Nature』論文(共同研究)掲載

本校卒業生の橋本恵さんの論文(共同研究)が、この度、世界で特に権威のある学術雑誌のひとつと評価されているイギリスの総合学術雑誌『Nature』(Nature. 2020. 588. 7838.459-465)に掲載されました。
論文名:「神経毒性ミクログリアはプログラニュリン欠損下でのTDP-43プロテイノパチーを促進する」(神経科学分野)
世界で活躍されている橋本さんには、この度、インタビュー形式で、研究に寄せる思いや後輩たちへのメッセージをお寄せいただきました。

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【インタビュー内容】

<今回の論文について>(Nature. 2020. 588. 7838.459-465)
御論文名:「神経毒性ミクログリアはプログラニュリン欠損下でのTDP-43プロテイノパチーを促進する」(神経科学分野)

まず、Nature掲載の論文について、どのようなことが書かれているのですか?
四大認知症のひとつとされている前頭側頭型認知症発症機構の一端を発表しています。前頭側頭型認知症の原因遺伝子としてプログラニュリン遺伝子が報告されています。このプログラニュリン遺伝子の変異によって、加齢とともに脳内免疫細胞・ミクログリアの異常活性と神経細胞の減少が起きることが分かっていました。この神経細胞の減少が認知症に繋がると考えられます。しかし、なぜ神経細胞が減少してしまうのか、ミクログリアの異常増殖が神経細胞の減少に関与しているのか、そのメカニズムは分かっていませんでした。今回の論文では、プログラニュリン遺伝子を欠損させたマウスを使って、ミクログリアの異常活性が補体因子を過剰に分泌し、この補体が神経細胞に攻撃することで神経細胞死を引き起こすことを発見しています。


日頃の研究の成果と思いますが、どのくらいの期間がかかっているのでしょうか?
3年程かかっています。私がカリフォルニア大学サンフランシスコ校で博士研究員として研究を始めてからは2年で論文になっています。それ以前から同僚達がこのプロジェクトをスタートさせていました。今回は4人の同僚達と分担協力して研究を進めたので3年という早い月日で皆さんに多岐にわたる研究成果を発表することが出来ました。

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今回の研究で苦労したことや、面白かったことなどについてお願いします。
苦労したことは、実験結果の再現性を取るために同じ実験・解析を繰り返したことです。とても大切な過程ですが、根気のいる解析が必要な実験もあるので昼夜を問わず実験を行うこともあります。一方で、新しい実験を考えて取り組む時やその結果によってこれまでの知見の点と点が線で結ばれるような感覚になる時は研究がとても面白く楽しく感じられました。


この研究は具体的にどのようなことに役立つとお考えですか?
認知症の有効な治療法開発の足がかりになると嬉しいです。現在、この論文をもとにして、ある化合物がミクログリア異常活性や神経変性を抑制するかどうかという研究にも取り組んでいます。今はマウスを使った研究を行う段階ですが、研究がもっと発展すればヒトへの応用が可能かもしれません。簡単なことではありませんが、人々の役に立つような研究に貢献できたらいいなと思っています。

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<在校生にむけて>
中高生の頃、どのように勉強をしていましたか。特に理科についてどうでしょうか?
暗記することはもちろん大切ですが、それよりも論理構成を理解することを意識していました。教科書や図説は何度も読みました。授業が終わるとすぐに質問したり、放課後職員室を訪ねて繰り返し説明をしていただきました。
理科については、“概略をイラストに描いてみると理解が深まりますよ”というアドバイスを先生からいただいて、概略図を入れたわかりやすいノートの作成を心掛けていました。それは、研究者になった今でも続けています。教員免許状を取得する一環で、進学先の附属高校の教育実習に参加しましたが、安田時代の授業ノートはとても役立ちました。


論文掲載には、英語の習得が必須と思いますが、どのように習得されたのでしょうか?
英語論文の作成は、大学院時代に指導教員の先生に何度も添削してもらうことで少しずつ身につけました。また、専門分野の英語論文をたくさん読んで、科学論文特有の文章構成を学びました。”英語で論文を書く力”と”英語で会話をする力”は全く別物だと思っていますが、どちらも中学高校時代に学ぶ英語の基礎あってこそです。私自身、こんなに英語に触れるキャリアを選択することになるなら中高時代にもっと真剣に英語学習に取り組めばよかったと思っています。


安田女子中学高等学校の学びで印象的なこと、良かったことは何ですか?
当時は校則が厳しいという印象が先行していましたが、規律を守ることの大切さを教えて頂く中で画一化を強いるだけではなく、むしろ個性もしっかり受け入れてくださっていたように思います。卒業して10年以上経つ今でも、担任の先生や生物の先生と交流が続いているというのも、私の個性を受け入れて見守って頂いているからだと思います。何年経っても見守って頂いているというのは安心感にも繋がっていると思います。


「柔しく剛く」の教えで、現在、活きていることはありますか?
「柔しく剛く」は、置かれた状況に応じてその理解が少しずつ変化してきました。高校生の時には、優しい気遣いと強い心の両面を兼ね備えることだと自分なりの解釈をしていました。今は、「自分がしたいことに対し、柔軟な対応力と剛い芯をもって挑もう」という、安田リヨウ先生からのメッセージだと受け止めています。特に慣れない海外生活では、意見を自分で発信しないと誰も助けてくれませんし、思い通りにいかないことばかりです。そのような中で“柔しく剛く”の学園訓は、グローバル化による多文化が行き交う中でも支えとなる重要な教えだと実感しています。


安田女子中学高等学校の生徒へのメッセージ
いま学んでいることは間違いなく未来の自分の糧になります。変化や失敗を恐れず楽しむ気持ちをもつと、今まで考えもしなかった新しい未来が切り開けると思います。

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<ご紹介>
橋本 恵 (はしもと・けい)
所属: カリフォルニア大学サンフランシスコ校 日本学術振興会海外特別研究員
学位:博士(理学)(お茶の水女子大学)

<プロフィール>
 ・2005年3月 安田女子中学校卒業
 ・2008年3月 安田女子高等学校卒業
 ・2009年4月-2013年3月 お茶の水女子大学 理学部 生物学科
 ・2013年4月-2015年3月 お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科
ライフサイエンス専攻 博士前期課程
・2015年4月-2018年3月 お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科
ライフサイエンス専攻 博士後期課程
 ・2018年4月-2019年3月 お茶の水女子大学ヒューマンライフイノベーション研究所 研究員
 ・2018年10月-現在   カリフォルニア大学サンフランシスコ校Department of Pathology Postdoctor Fellow

<論文> 
・Neurotoxic microglia promote TDP-43 proteinopathy in progranulin deficiency
Nature. 2020. 588. 7838.459-465 (2020年12月17日)
・2-carba cyclic phosphatidic acid suppresses inflammation via regulation of microglial polarisation in the stab-wounded mouse cerebral cortex
Scientific Reports volume 8, Article number: 9715(2018年6月)
他多数

<講演・口頭発表等>
  ・【博士人材のためのキャリア支援セミナー】思っているより活躍の場は広い
~女性博士のキャリアパス~ (2019年9月)
  ・卒業生リレートーク招待講演
    2016年度安田女子中学高等学校スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会(2016年12月)
  他多数