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授業科目 「英語学概論Ⅰ・Ⅱ」の紹介

2016.07.25

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(写真は、テキスト、Cohesion in English)

「英語学概論Ⅰ・Ⅱ」(ことばの科学)

英語英米文学科3年生向けに開講されている「英語学概論Ⅰ・Ⅱ」について紹介します。名称だけを見ると難しそうに思えるかもしれませんが,授業では,英語の音声,英単語の形成や成り立ち,英文の構造,英語の意味や文体などに関して,英語学の基礎的な知識を紹介しています。

具体的な例を挙げましょう。学習項目の1つに,結束性 (cohesion) というものがあります。結束性という用語だけでは,それがどのようなものかわかりにくいでしょうが,「文と文をつながりのあるまとまったものにしているもの」というように考えてください。もっと具体的な例を考えてみましょう。取り挙げる英文・訳文に関しては,M. A. K. Halliday and Ruqaiya Hasan, Cohesion in English (1976, Longman) とその訳本『テクストはどのように構成されるか』 (1997, ひつじ書房) から引用しています。この翻訳本は,本学英語英米文学科に所属している(所属していた)教員5人で翻訳したものです。

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(『テクストはどのように構成されるか』)

(1) *John took John's hat off and hung John's hat on a peg.
  (ジョンはジョンの帽子を脱いで,ジョンの帽子を掛けくぎに掛けた)

皆さんは,上の例文 (1) を読んで,何人のJohn がいると思いますか。1人でしょうか,それとも2人でしょうか。ある学生は,「John という名前の人が2人いて,一人目の John が二人目の John の帽子を取って,その帽子を掛けくぎに掛けた」と答えました。

しかし実際には,この英文は,「ただ1人の John という人が自分の帽子を脱いで,それを掛けくぎに掛けた」ということを意図して書かれたものです。通例,1人の人物の行動を描くのであれば,同じ文の中でその人の名前を繰り返すことはしませんので,例文 (1) を読んだ学生が,上記のように回答したのはもっともなことだと思います。

言及する対象をよりはっきりさせるために John という名前を繰り返したとも考えられますが,それがかえって英文の意味をあいまいにしています。意図された内容の英文を作成するとすれば,代名詞を使用した次のような英文が考えられます。

(2) John took his hat off and hung it on a peg.
  (ジョンは帽子を脱いで,それを掛けくぎに掛けた)

皆さんはすぐにおわかりになると思いますが,例文 (2) において,代名詞 his は文の主語である John のことを指しています。また,代名詞 it はhis hat のことを指しています。例文 (1) のように名前を繰り返すよりも,代名詞を用いた方が前後のつながりがはっきりし,ただ1人の John が行った行為が正確に表されています。このような代名詞の働きこそが,結束性と考えてよいのです。代名詞というのは,先に出現した名詞の代わりに使用される「代用品」であるという乱暴な見方をする人がいますが,実際には,英文の要素を結びつける重要な役割を果たしているのです。

このようなことを学習することによって,学生諸君には英文を読む時や書く時に,前後のつながりやまとまりをこれまで以上に意識するようになってもらいたいと思っています。

代名詞のような普段何気なく使っている語句にも,重要な意味や働きがあるということが少しは理解していただけたのではないかと思います。サブタイトルを「ことばの科学」としたのは,英語という言語を客観的に,理論的に学習していくことの必要性を意図したからです。効果的な英語の学習を行うには,このような視点からの学習も必要だと考えています。


担当教員:高口 圭轉